CW運用などの実戦で第一ミキサーの性能を最大限に引き出すには、
ミキサーから後段へ目的信号以外の不要な信号を流出させないことが重要なポイントになります。それは最終IF段のDSPによるデジタルIFフィルターの性能を最大限に発揮できるからです。TS-990のメイン受信部は、すべてのアマチュアバンド受信時に第一IF周波数8.248MHzのダウンコンバージョン方式を採用。従来のアップコンバージョン方式では成しえなかった優れた近接ダイナミックレンジ特性を実現しています。妨害波が近接周波数であっても、ほぼフラットなダイナミックレンジ特性を維持し、目的の信号のみを逃がさずキャッチできます。
従来のJ-FETを使用したダブルバランスミキサーに代えて、メイン受信部の心臓ともいえる第一ミキサー回路に新規開発のDouble Balanced Grounded Switch Typeミキサーを搭載。また受信周波数に連動して同調周波数を可変するプリセレクター機能を装備。アマチュアバンド専用バンドパスフィルターで落としきれない強力な妨害信号の減衰に効果を発揮します(HF 帯のアマチュアバンドで動作)。さらに第一ミキサーまでの信号経路には大入力信号による歪の発生を防ぐため大型コアのトロイダルコイルの採用や、信号切換にリレーを用いるなど、選び抜かれた回路と部品群により、第3次インターセプトポイント+40dBmクラスを実現しています。
すべてのアマチュアバンド受信時にダウンコンバージョン方式を採用するとともに、5種類のHigh-IPルーフィングフィルターを実装しています。CW運用で頼りになる500Hz、270Hzの狭通過帯域幅はもちろん、SSBで使用される2.7kHz、AM/FMに適した6kHz、15kHzをカバー。これらのフィルターは、DSPによる最終通過帯域幅設定と連動して自動的に選択。もちろん手動での切り替えもできます。
TS-990 の局発回路は、メイン受信部用:VCO分周型/DDSダイレクト、サブ受信部用:DDSダイレクト、送信部用:従来型PLLと、対象となる信号系に合わせて独立した構成となっています。今回メイン受信部の第一局発に採用した新規開発のVCO分周型方式は、VCOを目的周波数よりも高い周波数で発振させ、それを分周することによってDDSダイレクト方式に迫る良好なC/N 特性と、PLL 方式の特長であるスプリアスの少ない局発信号を実現しています。局発の低雑音化、高C/Nレシオ化で目的信号をノイズに埋もれされることなく、ピュアな状態で第一IFに変換可能です。
基準信号源として周波数安定度±0.1ppmのTCXO(温度補償型水晶発振器)を標準で搭載しています。高い周波数安定度でありながら、OCXO(温度制御型水晶発振器)のような予熱時間は不要なため、電源オフの状態からでもすばやい起動が可能です。ヨーロッパの省エネルギー規格Lot6に準拠。待機時省電力モードでの消費電力は0.5W以下を実現しています。また10MHz で基準信号の入出力が可能です。
21MHz帯以下の主要アマチュアバンドで、ダウンコンバージョン※
サブ受信部には発売以来クラスを超えた受信性能が好評なTS-590の受信部をさらにブラッシュアップして搭載。とくにフロントエンドには主要アマチュア5バンドでダウンコンバージョンが可能な回路構成を採用しているため、サブ受信部でありながらも実戦的な運用ができます。
※1.8/3.5/7/14/21MHz帯でIF帯域が2.7kHz以下のとき(SSB/CW/FSK/PSK)
500Hz、2.7kHzのルーフィングフィルター
サブ受信部のルーフィングフィルターには500Hz、2.7kHzを標準で実装。優れた近接ダイナミックレンジ特性により、妨害波が受信周波数に近づいても、ほぼフラットなダイナミックレンジ特性を維持。近接の強力な妨害信号が問題となるような受信状況ですクリアに信号をキャッチできます。
TS-950で世界で初めてのDSPを搭載、TS-870ではアマチュア無線機初のDSPによるIF AGC制御を実現するなど、アナログ回路では得られなかった通信の「質」を提供し続けたケンウッド。TS-990ではその集大成として3個のDSPを各主要ブロックに配置。メインIF、バンドスコープ、サブIFなどの信号処理を分散させることで、ゆとりあるデジタル信号処理を実現しています。
(FMモードはAF DSP処理)
SSBやCWの受信音質はオーディオの周波数特性やフィルターの遅延特性だけで決まるものではありません。AGC特性もきわめて重要な役割を担います。多くのファンからの「長時間ワッチしていても聞き疲れしない」という評価は、ケンウッドのAGCならでは特性です。TS-990ではDSPのAGC制御アルゴリズムだけでなくアナログAGC部も合わせて進化させ、ケンウッドトーンにさらなる磨きをかけています。
内蔵スピーカーの音質は筐体の構造でも大きく左右されます。TS-990では構想段階からシミュレーションを重ね、不要な筐体の振動を最小化。ケンウッドトーンは回路やDSPだけでなく、緻密な筐体設計にも裏付けられているのです。
IFフィルター帯域可変
DSPフィルターの帯域を可変し、用途や状況に応じた混信除去に対応。SSB/AM/FM モードではHI CUT/LOW CUT、CW/FSK/ SSB-DATA 通信モードではWIDTH/SHIFT 機能として動作します。
IF フィルターのA/B/Cワンタッチ切り替え
IF フィルターの帯域幅を最大3つまでプリセットして瞬時に切り替え可能。ナロー、ワイドに設定すれば、すばやいオペレーションが要求されるコンテストなどで便利な機能です。
IFノッチ
強力な妨害信号をノッチで除去し、目的の微弱信号をキャッチ。ノッチ周波数が自動で可変するIF オートノッチと手動で可変できるマニュアルノッチを、混信の状況に合わせて使い分けできます。
バンドエリミネーションフィルター機能
阻止帯域幅と減衰量を可変できるフィルター
です。目的信号に妨害信号が重なっている場合に、目的信号を多少削ってでも妨害信号を減衰させるような運用に便利な機能です。
デジタル/ アナログ2 方式を搭載したノイズブランカー機能 (NB1/NB2)
弱ノイズに対する効果に定評があるアナログノイズブランカー(NB1)に加え、デジタルノイズブランカー(NB2)も搭載。ノイズの種類や受信状況に合わせて、最適なノイズブランカーを選択できます。NB1では受信帯域幅によらない安定したノイズ除去が可能。NB2はアナログノイズブランカーが追従できないようなノイズに効果を発揮します。なおTS-990では、NB1とNB2の同時使用が可能です。
DSPによるノイズリダクション機能(NR1/NR2)
NR1/NR2と2種類のノイズリダクション方式を搭載。NR1では音声系モードでのノイズ除去に特化したスペクトル減算方式のノイズリダクションを採用。各受信モードに最適なノイズリダクション方式が適用されます。
<その他の混信除去・ノイズ除去機能>
●ビートキャンセル機能 (BC1/BC2)
IFオートノッチが強力なビートに効果的であるのに対して、ビー トキャンセルは比較的弱い複数のビートに効果を発揮します。
●オーディオピークフィルター
CW やFSK のようにキャリア受信時にピッチトーンの通過帯域幅を可変。 FSK はマーク、スペースの周波数に対応しています。
メインディスプレイ
メインディスプレイは周波数、モード、メーターなどの基本情報、各種付属機能のON/OFF状態などを表示。また内部パラメーターの設定やメモリーリストの表示なども行えます。さらにバンドの状況を監視できるバンドスコープ機能を搭載。DSPによるFFT処理で高速スイープを実現します。またウォーターフォール表示をはじめ、さまざまな表示に切り替え可能です。
3.5インチTFTサブディスプレイをメインツマミ上に配置し、周波数読み取りの視線移動を最小化するだけでなく、復調オーディオスペクトラムを表示することで目的信号そのものを監視できます。さらにフィルターの効果を見やすくサブディスプレイに表示できるため、直感的なオペレーションが可能です。なお、サブディスプレイは以下の4画面から目的に応じた表示に切り替えできます。
従来VFO A/VFO B を切り替えていた周波数ファンクションを、メインバンドとサブバンドの切り替えで実現。メインダイヤルツマミ上部にあるサブ側のRXキーでサブ受信のON/OFF、TX キーでシンプレックスとスプリットの切り替えが可能です。さらにLEDの点灯で現在の状況がひと目でわかります。
従来シリーズと同様にM>S とM/S による設定に加え、2アクションのクイックなスプリット設定が可能です。
最大120ch のメモリーを用意。レピーター周波数に加え、ビーコンや放送局のプリセットが可能です。さらにデュアルチャンネルメモリーにより二波同時受信の状態の呼び出しも簡単にできます。
サブ受信部専用の混信除去操作系をメインパネルの右端に集中配置。とっさの操作でも迷うことなく必要なツマミやキーに アクセスできます。また帯域可変エンコーダーは操作対象の 切り替えでメインとサブを共用。サブ運用時はLEDが点灯し、 誤操作を防止します(帯域可変エンコーダーをメイン専用とすることも可能)。さらにバンドエリミネーションフィルター、APF、ミュート、DSP IF FILTERのスロープ切り替えの追加、AGC OFFキーの独立、NB1/NB2の同時使用などの機能も、TS-990用にチューンナップしてTS-590より大幅にアップグレードしています。
メインダイアルとサブダイアルの直近に、頻繁に使用する機能を集中して配置。さらにクイックな運用を支援します。
フロントパネルにヘッドホンジャック、マイクジャック、キージャックに加え、2つのUSB端子を装備。キーボードやUSBメモリーが使用できます。
本体をアップデートモードで起動させ、ファームウェアを書き込んだUSBメモリーをフロントのUSB-A端子へ差し込むと自動的にアップデートを開始。また、背面のUSB-B端子とPCをUSB ケーブルで接続し本体をアップデートモードで起動させると、PC に「TS-990」フォルダが表示されます。そこにファームウェアをドラッグ&ドロップするだけで自動的にアップデートを開始します。
マイク端子に加え、背面パネルにアナログオーディオ入出力、USB オーディオインターフェイス、光デジタルインターフェイスと多彩な入出力インターフェースを配置。これらをSSB/FM/AMの各モードでDATAモード(1~3)と組み合わせることで、変復調用の外部機器を簡単に切り替え可能です。またDATA VOX 機能、変調ラインごとのミュート切換え機能なども装備しています。
ARCP-990(ラジオコントロールプログラム)によって、ほぼすべての機能がPCでコントロールできます。各種機能設定やメモリーチャンネルの管理などもPCから可能です。なお、ARCP-990、および関連ソフトは、ケンウッドWEBサイトでTS-990シリーズ発売後公開予定です。
従来のプリセットに加えて、最大3個までのユーザー設定が可能です。モードごとに使用するイコライザーを記憶できるため、きわめて快適にHiFi-SSBによるラグチューなども楽しめます。
前面パネル
(1) ヘッドホンジャック(φ6.3)
(2) パドルキーヤー (φ6.3)
(3) USB コネクター(USB-A):
PC コントロール、USB オーディオ
(4) マイク端子 (8pin メタルタイプ)
背面パネル
(1) アンテナコネクター(M 型)×4
(2) RX IN コネクター(RCA):受信専用アンテナ端子
(3) RX OUT コネクター(RCA):外部受信機接続端子
(4) キージャック(φ6.3):パドル、縦ぶれキー、PC キーイング用
(5) ACC2 コネクター(13Pin DIN):オーディオ入出力他アクセサリー接続用
(6) リモートコネクター(7Pin DIN):リニアアンプ接続用
(7) メータージャック(φ3.5):アナログメーター接続用
(8) ドライブコネクター(RCA):ドライブ出力
(9) グランド端子
(10) 外部基準入出力端子(BNC):10MHz
(11) AC 電源コネクター(3Pin)
(12) AT コネクター(6Pin):外部アンテナチューナー接続用
(13) キーパッドジャック(φ3.5):ファンクションキーパッド接続用
(14) COM コネクター(D-SUB 9Pin):RS-232C
(15) 光デジタルインターフェース入力端子
(16) 光デジタルインターフェース出力端子
(17) 外部スピーカージャック1(φ3.5)
(18) 外部スピーカージャック2(φ3.5)
(19) USB コネクター(USB-B):PC コントロール、USB オーディオ
(20) ディスプレイコネクター(DVI-I):外部ディスプレイ接続用端子
(21) LAN コネクター(RJ-45):PC コントロール
ARHP-990